メキシコ

メキシコシティーの飛行場で、ロサンゼルスへ帰る若い女の子が、待合室の隣の椅子に腰かけていました。


「どう、楽しかった、メキシコは」と聞いてみた。


とたんにその女の子、口を結んだまま、よく彼らのやるように下あごを突き出して、右手で蝿を追い払うようなしぐさをした。


つまり、とんでもない、という感じをやったのだ。


そして口をあけて、「これで終わりよ、ペソ、ペソ、ペソは」と言って、右手をさし出して、ペソをくれという格好をやってみせた。


これにはこっちもたびたび思い知らされたことだけに、思わずにやりと笑った。


そう、言われるまでもなく、メキシコにいる間じゅう、この"ペソ、ペソ、ペソ"との戦いでした。


海外に行くならやっぱりイタリアがいいな、そう思った瞬間でした。

意味のあるときだけ

海外旅行にいってヨーロッパで、人前に金を出したままにするのは、その金のやり場にちゃんと意味のあるときだけ、と心得るべきです。


そしてこまかい金は、手ですっかりさらったりしないで、少しの端数くらいは残してやるほうが、客としても気分がいい。


これを彼らが持っていくときには、小さい声だけど、必ず「グラッチェ」と言っていく。


そしてまた、こうしてちゃんと精算したあとは、ゆっくり、まあどれだけここにいてもこれは心配ない。


日本人の中には、こんなに長くいると悪いから、と言って、もう一度、何か飲み物をとる人もいるが、これはナンセンス。


もしそんなに気を使うなら、金を払うとき、サービス料以外に少し多めにチップをおいたほうがいい。


それも少し多めの程度でよろしい。


それで充分、こっちの気持ちは通じるはずです。


それがチップのうれしいところでもあります。


さて、本日のキャフェグレコはいかがでございましたか。

うっかり

あるとき、キャフェグレコで、うっかり話に夢中になっていて、このつりをしまうのを忘れていたら、燕尾服氏がつかつかとやってきて、そのつりを指さして、これは私のためか、と聞いた。


見ればコーヒー代よりも多額の金が積まれているではないか。


そういうときはあわてず、小銭を少し残してあとは手早く片づける。


くれぐれもおつりは出しとかないように。


客の中には飲んだものより多いつりをそっくりおいていく者もあるとか、こういうところが一流店の一流店たるところで、おっそろしく金持ちもいるという話。


つりを出しっぱなしにして片づけないということは、彼らにいたずらに気を持たせることになります。


海外ツアーの時でもこういったことには気をつけましょう。

サービス料

イタリアへ海外旅行へ行ったらまずローマへ行こう。


キャフェグレコでは、ちゃんとサービス料が入っています。


そこでユーロの札を出して払うことにする。


そのとき彼らのおつりをテーブルの上に出すのが、あまりにも早い。


何度も行くうちに、とうとうその秘密を突きとめた。


彼らの着ているその燕尾服の、あの文字どおり、燕のしっぽのかげにその秘密はあった。


そのかげに、小さな袋が下げてあるのだ。


おつりを出すとき、彼らはそこへ手をやって、もそもそと小銭をつかんでとり出すのです。


まさかしっぽにぬいつけては、しっぽが重くなるので、そのかげに腰から袋を下げているようでした。


おつりをおいたら、例の紙切れは手でちょっと破れ目を入れていく。


確かに払いましたよ、この人は、というサインです。


さて、こうしておつりをおいたら客たるもの、たちどころにこのつりは自分のポケットにしまうべきです。


寸時たりともこのままテーブルの上へ残しておいてはいけない。


おいてあるものはチップというのが常識だから。

日本の並みの喫茶店ぐらい

日本の金にして、今イタリアとの換算が十分の一だとすれば、三百円から五百円くらいか。


イタリアでは高いとしても、日本の並みの喫茶店ぐらいか。


そしてその数字のすぐ下がサービス料、普通は15パーセントです。


その下にトータルが出ています。


そのトータルの数字だけ払えばいい。


その場合にも、この紙切れはじっくり見たほうがいいし、もしサービス料らしきものが入ってない場合には、「コンセルヴィーツィオ?」と聞いてみるといい。


入っている場合には、低い声で、「シイ」と言うだけ。


もし入ってない場合には、大きい声で、「ノンシニョーレ、ノンセルヴィーツィオ、ノン」とノンをやたらに言うから、イタリア語はさっぱり、という人にもすごくはっきりとわかる。


そんなこんなで海外に行くならやっぱりイタリアだなーと日々思うわけです。


燕尾服

男の場合の夜の礼装としては最上位にあるのが燕尾服です。


これを着てあらわれるから、はじあての人は異様な顔をして、しまいには心配そうな顔をする。


こんな第一礼装を着ているくらいだから、さぞかしこの店は高いだろうな、と心配になるのだ。


しかしいくら高い店でも日本の高い店とはちがう。


なにしろ日本という国には、コーヒーがですよ、あのコーヒーが、一杯なんと九千九百円という店もあるのですから、事実。


外国では安心していられる。


たかがコーヒー一杯、という気安い値段がついているということで、まちがってもコーヒーに"様"がつくようなもったいない値段はついていない。


この店でも、他の店とくらべてせいぜい二倍と見とけばいい。


海外旅行をしたら安心してコーヒーを注文してみよう。


しばらくして、くだんの燕尾服氏が、コーヒーを片手にして目の前に立つ。


白と黒と、鮮やかなオレンジ色を縞模様に仕上げたコーヒーカップです。


これはジノリという、イタリアでは超高級品の部類に入る、焼き物のメーカーの品です。


日本でいえば、さしずめノリタケチャイナというところか。


このコーヒーカップをおくとき、小さな紙片もいっしょにかたわらにおく。


これがコーヒーの計算書です。


こういう場合、すぐその場で、持ってきたのと同時に払うのと、コーヒーを飲んでしまっていざ立ち上がるというときになって、あらためて払うのと、その払い方は二とおりある。


昔はヨーロッパじゅうが、後者の払い方でした。


しかし近ごろはウエイターの数も、絶対数ぎりぎりの場合が多いし、ちょっと客が多いと手が回らないから、コーヒーを運ぶのと、金を受けとる手間が二度になるので、ウエイターもそれらしい顔つきをして、客を促すことが多くなった。


それとうっかりすると、あっという間に客が消えてしまうこともあるとか。


これはウエイター側のいいぶん。


そして客のほうから言わせれば、いざ立ち上がろうとしてまわりを見渡しても、かんじんのウエイターは来ないし、どうすりゃいいんだこの俺は、ということも多いので両者の便宜上、いまではいわば引きかえに金を払うことが多くなった。


さて、ゆっくりこの紙を見てみよう。


上がコーヒーの値段、いまなら三千ユーロか五千ユーロくらいはするだろうか、ここのコーヒーは。

前回の続き


海外ツアーで行ったのですが、タバコでも一本ふかしている間に、ウエイターがやってくる。


このウエイターが他の店とは断然ちがっています。


たいていは六十がらみといった年齢で、自髪のいかにも経験充分といった連中だ。


やっぱりこの店もコーヒーがおいしい。


イタリアなら何をおいてもコーヒーだと思っているので、ここでも例外なくコーヒーだこういう店でコーラを注文している人を見かけるが、高い金を出して(このくらいの店になると、優に他の店の倍にはなる)、コーラなんか飲むことはないし、表通りにも立ち飲みのコーラだったらいくらでもあります。


立ち飲みでなくても、コーラはどこの店でも例外なく安く飲めるおっと忘れるところだったが、ここのウエイター氏、他と変わったところがもう一つあった。


その衣裳です。


彼らは燕尾服を着ているのです。


燕尾服といえば、ひところのコンダクターがタクトを振るときに着ていた、あのしっぽのある服です。

この店

キャフェグレコ、というこの店。


海外旅行でローマに行ったら立ち寄ってみてほしい。


まず中を見よう。


入り口の右側に小さいカウンターがあって、ここでコーヒーなどを立ち飲みする。


その反対側、つまり左手にはケーキなどの入ったガラスのケースがあります。


そこからもっと中へ入ると、ここが目ざすキャフェグレコの店内です。


クラシックな店の中には鏡が多く、小さなテーブルと椅子が並んでいる。


たしか椅子は赤いビロード張りだったような気がする。


壁側にはヨーロッパではよく見かける、ずーっと連なった式の長椅子がとりつけられています。


いずれにしても、三百年の古い歴史がそのままのような店だ。


心地よさそうなコーナーを選んで、腰をおろそう。

秘密


海外に行くならローマのスペイン階段をおりたところに、小さな泉へ行くことでしょう。


道路のまん中みたいなところにあるから、じつにほこりっぽいのだが、それでも旅行者たちはこの泉のまわりに腰をおろして涼をとっています。


その泉を通り過ぎて道路の向こう側の通りを入る。


それがローマきってのショッピング通りコンドッティです。


入ってすぐ左手にグッチ店があります。


それからちょっと行った同じく左側に、宝石店のブルガリがあります。


何年か前、イタリアに誘拐事件が続発したおり、ここの主人もさらわれた。


そのときの身の代金が法外だったのと、銀行から借りてポンと現金で支払ったのが、その当時ローマっ子の話題になった。


陰口によれば、あれは税金対策の狂言だったのでは、というのがもっぱらでした。


さてそのブルガリの正面にあたるあたりに、これは世界でも古い部類のキャフェ、日本流にいえば喫茶店があります。


入り口も狭く、日本式の喫茶店とはその造りもちがうので、うっかりすると通り過ぎる。


ほぼ三百年はつづいた店だ。


名前はキャフェグレコ。

砂糖は入れない

私は好みで、カプチーノには砂糖を入れない。


コーヒーの苦味がこの泡立てたミルクでほどよく甘いのだ。


しかしながら、このままこのカプチーノをカウンターに向かって飲みつづけるのは能がない。


やおら皿ごと、もしくはカップだけ取っ手を持って、くるりとうしろを向いてみよう。


表通りが、店の前の人通りが目に入る。


こうして人の流れを見ながら、立ったままカプチーノイタリアンコーヒーの香りを楽しむのだ。


この味わい方が、すなわちイタリア風なのです。


イタリアへ海外旅行に行く際にはぜひカプチーノを^^